
2112製作記録 #4|コバ処理と菱目打ち|効率系財布の製作過程
前回は、型紙転写と手断ちをご紹介しました。
今回はコバ処理と菱目打ちについて書いてみたいと思います。
材料を手断ちしたところです。手前にあるのは、コバ処理に使う革を準備したものになります。
この後は、コバ処理・穴あけ・手縫い といった工程を、2112|効率系財布の構造に合わせて必要な順で繰り返しながら仕立てていきます。
まずは、縫わない部分のコバ処理を行います。主に内装の開口部です。
通常は縫ってからコバ処理をしますが、縫わない部分については先に済ませておきます。この財布では、一部に例外的に先にコバ処理を行う箇所もあります。
どのような財布を作るかを考える際には、「どの順で作るか」までをセットで計画する必要があります。順序を誤ると、構造的に矛盾が生じ、製作が不可能な形になってしまうからです。
なぜコバ処理(革の切り口の処理)をするのかについて書いてみようと思います。
革の断面(コバ)は製品の強さと美しさを左右する重要な部分であり、その仕上げは革業界でも品質を測る大切な基準とされています。切りっぱなしのままでは繊維が露出しているため、使ううちに毛羽立ちやほつれが生じ、摩擦で削れたり、水分を吸って膨張と収縮を繰り返すことで、ひび割れや剥離を引き起こしやすくなります。さらに、財布やバッグの縁は日常的に手や衣服、机の角などに触れるため、曲げや引っ張りのストレスが集中し、断面から劣化が進行してしまいます。
このような理由から、コバ処理は革の断面を保護し、摩耗や水分の侵入を防ぎ、見た目を美しく整え、さらに手触りを滑らかにするために欠かせない工程です。つまり、コバ処理は革製品の耐久性と完成度を高める「仕立ての要」といえるのです。
自分は長い間、磨いて仕上げるコバ処理を行ってきましたが、一方でもっと最適な方法はないかと研究もしていました。その「最適な方法」とは、耐久性に関するものです。長くコバ処理を続けてきたことで、綺麗に整える方法については理解しています。しかし「長持ちさせる」という点は、実際に試して使い、その結果が出るまでに時間がかかるため、最適な処理方法を把握するには多くの年月を要しました。現在、自分が最適だと考えているのは、塗りと磨きを組み合わせたハイブリッド型のコバ処理です。
次は菱目打ちという道具を使い、縫うための穴を開け終えた様子です。
手縫いの場合は、あらかじめ菱目打ちで縫い穴を開けていきます。ただ単に開ければ良いというものではなく、どのように開けるかが重要です。これは「手から物を離せば落下する」といった自然の理に対して対策を講じるのと同じで、革製品もまた必ず負荷のかかる部分を想定して工夫する必要があります。
一例を挙げると、開閉で最も負担のかかる縫い始めや縫い終わりの縫い穴の間隔です。4mm間隔の菱目打ちを使うとします。もしその部分を3mmで開けてしまったらどうでしょうか。自分なら、負担のかかる部分だからこそ最大の4mmの間隔を確保したいと考えます。開け始めなら4mmを確保するのは容易ですが、縫い終わりで確実に4mmを取れるでしょうか。
自分はこの間隔についても最適な位置に穴を開けることができ、わずかな違いであっても、長く使ったときの強さに確かな差が生まれます。
ここでは一例を挙げましたが、実際には他にも多くの工夫を重ねながら製作しています。
今回は、コバ処理と菱目打ちについて書きました。
次回は、続く工程についてお伝えしたいと思います。