
2112製作記録 #1|革を準備と漉き
このたびは「2112」に応援・ご支援をいただき、本当にありがとうございます。
募集が終了し、いよいよこれから製作に入っていきます。
せっかくの機会ですので、ただ完成品をお届けするだけではなく、どのように形ができていくのか、その過程も少しずつご紹介していこうと思います。
第1回は、革の準備と漉き(すき)作業から。
まずは革の準備から。
革は最初に少し大きめに切り出し、そこから漉き(すき)作業に入ります。
漉きとは革の厚みを揃える工程のこと。
革には「原厚(げんあつ)」と呼ばれる基準があり、例えば「3〜4mm」と記載されて販売されています。購入時はこの範囲の厚みが届くため、使いたい厚みを指定して注文します。そのため、1mmの革でも3mmの革でも価格は同じです。
ただし、製作するパーツごとに求められる厚みは異なるため、さらに自分で漉いて調整する必要があります。
では、なぜ漉く必要があるのでしょうか。
その前に「革が一番丈夫とされる厚み」について触れておきます。
繊維が最も密に絡み合うのは、おおよそ 1.2〜1.5mm の厚さです。
仮に財布をすべて1.5mmの革で作ったとするとどうなるでしょうか。
外装に関しては、強度を確保できて理想的かもしれません。
しかし内装も同じ厚みだと、外装並みの強さを持つパーツが内部に重なることになります。
革は厚いほど丈夫ですが、その分しなやかさが失われ、折りたたみにくくなり、全体の厚みも増してしまいます。
例えば、1.5mmの革が10枚重なると「空の状態で15mm」に。
同じ構造を1.0mmの革で作った場合は「10mm」となり、カード約5枚分もの差が出ます。
逆に薄すぎると、今度は強度が不足し、よく触れる部分は破れやすく、穴が空いてしまうことも容易に想像できます。
だからこそ、パーツごとに適した厚みに調整する「漉き」という工程が欠かせないのです。
外装はもっともダメージを受けやすいため厚く保ち、内装は部位ごとに強度と使いやすさのバランスをとる必要があります。
外装は 2枚の革を張り合わせて 作っています。
実は、1.5mmほどの厚みの革を1枚で仕立てることも可能です。
しかし革の裏面は、処理をしても表(銀面)に比べてどうしてもザラつきが残り、お札の出し入れの際に引っ掛かりやすくなります。
そこで、表革どうしを張り合わせることで滑らかさを確保し、お札がスムーズに滑り込む構造にしています。
また、開いたときに裏面が見えにくく、見た目にも「しっかりとした印象」になるのもメリットです。
さらに、この財布は内装にも裏用の代替素材を使わず、すべてブッテーロレザーで構成しています。
漉きでは、いったいどのくらいの精度で作業できるかご存じでしょうか。
革の厚みは 0.01mm単位で測定できるゲージがあります。漉き機は抑えを締めたり緩めたりして調整するため、0.01mmずつ正確に漉くことはできませんが、例えば 0.75mmに仕上げるといった指定は十分可能です。
私の場合、薄さの限界はおおよそ 0.3mmくらいだと思っています。
例えば外装を2枚合わせて1.5mmに仕上げるときには、1.0mmと0.5mmといったバランスで革を用意する必要があります。
漉き機自体は単純な機械に見えますが、実際には多くの調整が必要です。
・革の押さえの角度
・革送りロールの角度や刃までの間隔
・革の押さえと刃の間隔
挙げていくとかなりの数になります。これらを理解して適切に調整できなければ、安定した漉き作業はできません。
次回はまた作業が進みましたらご紹介します。